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総体的奴隷制国家 日本

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 Hさんは大学の大先輩。長年大手企業の副社長を務め上げ、定年を迎えられる。先だってお会いしたときに、Hさんは5月にスペイン巡礼街道をたった一人で制覇する夢を語られた。いわく、「俺は独りで誰も知らないところに行って自由になりたい!」

 65歳のHさんは「俺は今までは奴隷だった、会社の役員までなっても所詮は奴隷の親分にすぎない、これから俺は自由になる」と、我々後輩を前に宣言された。Hさんはサラリーマン社会のいわば勝ち組なのに、なぜ自らを奴隷と位置付けるのか。

 Hさんと会った後で大前研一氏の「お金の流れが変わった!」(PHP新書)を読み、なるほど、日本のサラリーマン社会が奴隷制に近いと実感した。

 同書の「湾岸百万都市構想」によると、日本の工業化時代に政府は東京の湾岸地帯を工業用地にし、サラリーマンを丘陵地帯に追いやった。Hさん世代は、郊外に家を持ち、平均1時間20分(片道)かけて会社に通った。日本の高度成長を支えたサラリーマン世代は、家族のために住宅ローンや企業に縛られ、40年近くを務め上げた。そして今や、工業用地はペンペン草地帯となっている。

 大前氏の言うように、働き盛りの若い世代が湾岸地帯に安い住宅を構え、30分程度の通勤時間で生活し、住宅ローンで35年間もがんじがらめになることもなく、長時間通勤で疲弊困憊することもなくなれば、もっとワーク・ライフ・バランスが充実するだろう。彼らはもはや奴隷ではなく、湾岸地帯でヨットに興じたり、自由に新たな需要を喚起するだろう。

 先だって米国のティー・パーティ運動の指導者たちとの会合があったときに、「日本人は戦後デミングに学び、効率的な経営を取り入れ、日本の企業は素晴らしい効果をあげてきた。ビジネスと同じことをなぜ政治ができないのか」と、問い詰められた。まず、中央官庁の土地規制や様々な省庁のなわばりを撤廃し、人々の経済的自由を取り戻すことが「奴隷解放」になりそうだ。

 昨日、ムバラク大統領が退陣するニュースの中で、エジプトの若者たちが「私たちは政府に期待するのではなく、政治に参加して政府を変えるのだ」と言っていた。黙って働けばそこそこ生活できたというHさん世代の時代は終わった。日本の奴隷制が壊れないのは、民衆の異議申し立てがないからなのか。

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