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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

活きたおカネの使い方、復興ファンド

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 「復興ファンド」を提案する。増税の前に今あるおカネを十分活かす必要がある。現場を知る人、専門知識のある人、リーダーシップの取れる人におカネを回して初めて、おカネは「お値段以上」の価値創造をしてくれる。

 今はスピードが重要だ。そのため、実弾(=おカネ)を手当てできるファンドの仕組みが必要だ。すでに政府等の震災復興金融支援策がでているものの、支援策が軌道にのるまでには時間がかかる。さらなる対策についても、官邸や官僚、評論家が議論し、実際に動き出すまで恐ろしく時間がかかる。とても待っていられない。

 ファンドの原資をどうするか?日本には、郵貯(貯金残高約176兆円)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF、運用資産約123兆円)がある。こうした国民の蓄えは主に日本国債に投資され、極めて低いリターンの運用をしている。仮に、こうした硬直している資金の0.1%を出資し、復興ファンドとして機動的な金融支援を行えば、増税をしなくても十分大きな効果を上げることができる。その「活きたおカネ」の使い方とは具体的に以下のようだ。

 復興ファンドの使命は、リスクマネー(社会的意義のある資本)の供給である。従来は銀行が行った使命を復興ファンドが代替する。さらに、復興ファンドは、銀行と企業との間に立ち、企業金融再生を支援する。銀行をはじめとする金融機関は、復興ファンドと共にリスクをシェアし、すみ分けることで共存共栄をはかれる。

 具体的に復興ファンドの中身は、事業再生ファンドとインフラ再生ファンドである。

(1) 企業再生ファンド

 東北・北関東地区の被災地企業向け投融資が即必要である。今回の震災で工場がストップし企業活動の継続が困難な優良企業に対して、ファンドは機動的な資金供与を行う。具体的には、つなぎ融資による運転資金の供与、そして優先株等による設備復興のための資本増強を実施する。 

 誰がファンドを運用するのか?中堅企業の事業再生を専門とする国内の民間独立系のプライベート・エクイティ・ファンドを複数束ねたファンド・オブ・ファンズ形式を取る。既に、現行の独立法人中小企業基盤整備機構がその実態に近い。

 具体的に、民間独立系ファンド数社が被災地企業の現場とタイアップし、サプライチェーンの「日本外し」など緊急課題に対処する。企業再生のプロフェッショナルが、速やかに金融支援を行い、地元優良企業の復興・再生に努める。

 復興ファンドは5-7年の投資期間とし、必要に応じて再投資を行う。

(2) インフラ再生ファンド

 日本の電力、水道事業、空港、港湾施設などのインフラ・設備はこれまでも効率的に運用・運営されてこなかった。今回の福島原発は、電力、エネルギーすべてを効率化する政策転換のチャンスととらえるべきだ。国家が中立的立場でインフラ・ファンドを設立し、インフラ投融資を一元管理することで、最新設備を設置し、競争を促し、効率的オペレーションを可能にするだろう。

 電力についていえば、インフラ再生ファンドは最新の火力発電所を建て、また、既存のエネルギー効率のよい発電所を買い取る。ファンドが電力会社に競争を促し、電力料金を下げ、かつ安心して使える電力を各地域に分散して供給できる仕組みを作る。そうすれば、旧式でエネルギー効率の悪い設備は淘汰されてゆく。

 電力業界に詳しい元ムーディーズ社アナリストの森田隆大氏によれば、日本の電力料金は世界基準で既に低い。発電と送電事業を分割・管理する考え方があるが、むしろ地域でばらばらな水力発電所がまとまった送電運営を行うなど、オペレーション効率化のほうが実態に即している。

 インフラ再生ファンドは30-40年と投資期間が長く、年金基金の目標リターン年3-4%に見合う安定的な運用収益を目指す。

 二つのファンドは明確な投資目的、投資ルール、そして透明性の高い運用を行うことで、近代資本主義的な産業プラットフォームを組成する。

 従来の既得権益の恩恵にあやかる人々は反対するだろうが、現状、その権益は時代遅れで利益を生まないビジネスモデルとなっている。だから、沈んでゆく船と心中するよりは早く新しい産業金融のプラットフォームに切り替えるほうが得だし、日本のためなのだ。

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