グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

再びスタグフレーション?

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ここ数日間、市場参加者の意識に変化がみえる。キーワードは「スタグフレーション」、原油高からインフレと失業に苦しんだ1970年代がよみがえる。いくつか気付いた点をまとめておこう。

  •  ブルンバーグ(13日付けグローバル・ファイナンス)によると、日本を除く海外大手企業の1-3月期決算の利益が過去最高水準に達する見通しである。世界は景気回復に向かっている。日本の大震災後の復興は7-9月期と期待されるが、夏の電力不足が足かせになりそうだ。福島原発の問題は長期化し、原子力以外のエネルギー資源価格が上昇が続くとみられる。ガソリン価格高騰や復興税など可処分所得を減らすことから、秋口まで庶民の消費は伸びないだろう。
  • 中東諸国が自由を求める「中東の春」情勢はしばらく流動的で、原油価格はバレル当り100ドル以上で高止まりしそうだ。政治改革を求める動きは、アルジェリアからエジプト、イエメン、バハーレン、オマーン、サウジアラビア、シリアへ拡大を見せている。サウジを除いたこうした国々は、中東といえども産油高はないか、あっても先が見えている。加えて、若年層人口が多く、彼らの失業率が特に高い。若者の怒りは経済不安、近代的な政策のない旧態依然とした支配層に向かっている。
  • 日本を除く世界では回復基調に合わせ、金利が上昇し始めている。ECB(欧州中央銀行)は、ポルトガルへの財政支援を検討する中、先週利上げを実施し、13日には追加利上げを示唆している。また、新興国も金利上昇基調にある。中国やインドでは既にインフレと戦う体制に入っている。
  •  特に中国は4月5日に4度目の利上げを実施したが、内需拡大を目指しながらの金融政策はかじ取りが困難である。食料品とガソリン価格の値上がりは庶民の生活を直撃するため、1989年の天安門事件のときもそうだったように、インフレが過熱すれば政治不安を引き起こす。一方、急激な引き締めを行えば金融収縮と国内消費の冷え込みが起こり、成長は続かない。人民元の引き上げ、自由化はどうなるか。
  • 米国では財政赤字削減をめぐり、民主・共和両党が激しく対立した。13日付けフィナンシャル・タイムズ(FT)紙の一面にはIMFが米国の増え続ける財政赤字に対してドル信認へ懸念を示す記事が掲載され、一瞬ドキッとした。同日にはオバマ大統領が12年間で4兆ドルの赤字を削減する計画を発表した。財政規律を求める共和党との交渉はこれからも続く。ティーパーティはハイパーインフレを懸念しているが、失業率が高止まりしているせいか、FRBバーナンキ議長は「ハト派」として引き締めにまだ消極的である。しかし、いつインフレとの戦いにスタンスが変わるか、案外早いかもしれない。
  • 中東情勢が欧州景気に悪影響を与えることに加えて、東電の失態からEUではポルトガルへの救済が遅れそうだ。東電のおかげで世界中で原発への風当たりが強くなり、ドイツのメルケル首相も「緑の党」の躍進に押され、政治勢力を弱めてしまった。ドイツがEUの中で積極的にポルトガル支援に向けて動かないと救済措置が遅れてしまうのだが、ドイツ国民の間では以前から「なぜ我々の税金でポルトガルやギリシャを救うのか」と不満が渦巻き、人気のない金融支援策を進めるにはメルケル首相は力不足となってしまった。
  • 少しずつ世界は金融引き締めに向かっているが、まだ市場にはマネーがあふれている。ドル信認が晴れない中、金価格は1600ドルのピークに向かうと予想されている。FT記事(13日付け)によると高頻度トレーディングに特化したヘッジファンドは新興市場のボラティリティーを求め、いっせいに先進国から新興国へとシフトしている。クウォンツ系は市場流動性がひっ迫すると損失を深めてしまう。サブプライム・ショックの2007年夏、ヘッジファンドでクウォンツのメルトダウンが起こった。同じことを新興市場で繰り返さないとは限らない。

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