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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

借金を増やしても生活は楽にならず

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 21日のFRB(米国連銀)は予想通り、さらなる金融緩和策を決定した。「ツイスト・オペレーション」を実施し、長期国債を購入し、短期国債を売却した。このため、長期金利が下げている。欧州発金融危機の不安から「質への逃避」で米国債への需要は強い。

 多くのエコノミストは、このように市場におカネが溢れだすことで投機やインフレのリスクが高まると指摘している。インフレになればデフレのリスクは減るが、インフレのスピードは予想よりもずっと速いかもしれない。

 米国では政府が借金を支払うために国債を発行し、同時に、今回のように国債を購入して資金を市場に出している。さらに政府が支出を増やし、減税を行えば、国民にとっては可処分所得が増える。この増えた分を国民がどんどん使って、個人消費が伸びればいいのだが、日本のようにおカネを使わずにタンス預金してしまうと、結果として所得も増えたことにならず、元も子もなくなってしまう。

 政府が借金を重ねても、その分、国民の暮らしが楽にならない。これは日米共通している。米国では、株価が下がると「負の資産効果」から個人消費は縮こまる傾向がある。また、失業率の高止まりで雇用不安から、借金を増やしてまでモノを買う意欲も薄れている。それでもセクショナリズムで固まった政府には決断力がなく対策を先送りするので、状況は現状維持どころか悪化していく。これも日米共通している。

 米国では、景気の行き詰まりが教育や公衆衛生など日常生活に支障をきたすほどになれば、政治体制の大きな変化を望む動きが出てくるだろう。米国人は日本人のように黙って耐えることはしない。怒りを行動で示す。そのタイミングが来年の大統領選挙とどうからむか。初めての黒人大統領の権威失墜は、マイノリティの人々にとって希望を失うことになりかねない。

 日本はどうだろうか。大震災と津波の後は、核兵器を何発も落とされて焼け野原になったような状況だった。それから6カ月もたっても、福島原発事故の収束の目途はたたない。円高が進行し、企業が海外進出を加速するものの、世界同時不況と保護主義の台頭で、日本企業は海外でも苦戦を強いられるのではないだろうか。

 景気が底を打って回復に向かうタイミングは、米国のゼロ金利の状況から見ても今から2013年いっぱいかかると思われる。大統領選挙をまたいでさらに1年くらい不況感は続くと予想される。

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