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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

流動性の罠と新たなBIS規制

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 ギリシャ危機を未解決のままずっと引きずってきた欧州の政治指導者たち。次にスペイン、イタリアへの財政支援問題が浮上している。欧州の民間銀行は両国へのエクスポージャーは大きく(=スペインやイタリアへの貸し付けや投資額が大きく、その分リスクにさらされている)、政治的な判断や対応が遅れれば、欧州金融市場への悪影響も大きい。そうした不安定さから、各国では移民や若者の失業など国内問題がくすぶり続けるだろう。 

 米国のヘッジファンドによる景気見通しをいくつか読むと、このところ共通して「Liquidity Trap、流動性の罠」というタームがでてくる。FRBがこれ以上の低金利と量的緩和を続けても「砂漠に上呂で水をまくようなもの」で、景気回復につながらないという意味だ。日本語で「焼け石に水」というべきか。

 米国経済は相当軟化している。一般に、デフレ回避や景気回復のためには一層の緩和政策を取るべきだが、それでもなお高い失業率と景気減速はおさまりそうにない。一方、原油や食料品の値上がりが家計を直撃し、インフレ懸念が表面化している。金価格の高騰にもみられるように、マーケットはインフレを読んでいる。さらに、8月に入ってからの株価急落で、個人の退職金積立基金に含まれる株式比率が高いことなどから、「負の資産効果」を引き起こし、個人消費は縮こまっている。

 さらに、米国のMMF(マネー・マーケットファンド)は欧州銀行に対してかなりのエクスポージャーがある。欧州金融市場でのショックは、すぐに米国の銀行に波及し、MMFの元本割れや個人投資家への悪影響も出てくるだろう。その意味では、欧米の金融機関は「薄氷踏む」ような思いでマーケットを睨んでいる。

 この不安定な市場環境のなか、世界の金融機関にとって、さらに大きな不安材料がある。バーゼル・スリー(BIS III)という、資本強化を強いる新たな規制である。締め付けがきつくなれば、金融機関の融資や投資は縮小し、収益機会の減少し、経営は圧迫される。だが、バーゼル委員会の取り決めに各国が同意しても、混乱のなか規制を守るかどうかは別の問題である。特にEUはマースリヒト条約のもとに通貨統合を果たしたのに、このソブリン危機に直面して加盟国が条約を守ろうとする動きもみられない。

 米国もまた、デット・シーリング(赤字国債発行の制限)もあり、これ以上の財政出動も限られる。バーナンキFRB議長の25-27日のジャクソンホールでの年次会合での発言が注目されている。

 こうした環境では、しばらく円高は続く。財務相が単独介入しても「焼け石に水」。

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