オックスフォード・アナリティックス社のマイケル・ブルース氏は「政治と経済は一体化している。金融・経済の動きを見る上で政治情勢も一緒に見て行かないと正確な情報は取れない」と語る。たしかに、国際金融市場の動向は国際政治情勢と切っても切れない。
金融市場がグローバル化し、世界の市場が密接に関連し合うなか、リーマンショック後、先進国の中央銀行は国益の先頭に立って、金融緩和と通貨安政策を実施してきた。ジェームズ・リカーズ氏は著書『ドル消滅』のなかで、CIAが「おとりヘッジファンド」を使い、テロリストの資金源を突き止める息をのむようなオペレーションなど、金融戦争・通貨戦争の現場を描いてくれた。そうした戦争にもまれる新興国では、景気減速と同時に政治体制のほころびが顕在化してきている。
特に、戦略資源である原油に関して、原油安が長く続けば、ロシア、サウジアラビアを始めとする中東産油国、ベネズエラなど、原油依存度の高い国では歳入が減り、財政赤字が増え、やがて国家財政は傾いて行く。(ベネズエラはチェベス体制下で既に経済破たんしており、国内に残された人々は超インフレ、失業、治安悪化のなかで困窮を強いられている。)
4月17日、ドーハ産油国会議では原油増産凍結協議が不調に終わった。サウジは一昨年より米国シェールオイルとのコスト競争に入り、市場シェア拡大に走っている。イランもシェア争いに参戦し、中期的には、原油安、リスクオフ、株安といった弱気相場が予想される。サウジ(スンニ派)とイラン(シーア派)の宗派的な対立に加え、米国とイランの接近、サウジと米国の確執など、関係は複雑である。
参考記事(ロイター4月20日 「消えた石油増産凍結」)
http://jp.reuters.com/article/insight-oil-saudi-idJPKCN0XG05N?pageNumber=1&sp=true
ただし、クウェートでのストライキやナイジェリアなど産油国での地域紛争、突発的な戦争が起これば、原油価格は上昇に転じる。この場合は、短期的に、原油高、リスクオン、資源通貨の値上がり、株価上昇が予想される。相場はリスクオフとオンの間を行き来し、ボラティリティが一層高まるだろう。
こうした相場環境下、新興国の経済と政治の不安定化が進みそうだ。最近、ブラジルではルセフ大統領に対する弾劾決議が下院本会議で採択された。ブラジルの主要輸出品である鉄鉱石の価格が下落し、景気後退のなか、国民は大統領の汚職事件に怒り、全土で3百万人のデモが起こった。
同様に、原油安が長引けば、ロシア、サウジでも財政難に陥るだろう。ロシアの第一四半期GDPはマイナス1.5%と推定され、プーチニズムがいつまで続くのか懸念され始めている。
参考記事 (ロイター4月20日付「ロシアはいつ壊れるのか」)
http://jp.reuters.com/article/russia-putin-idJPKCN0XG054?pageNumber=1&sp=true
また、資源価格の下落要因とされる中国経済の減速と需要低下のなかで、共産党指導部の汚職摘発がいつ第二の文化大革命の導火線となるか懸念されている。
そうした状況下で、「パナマ文書」は不安定化を加速させるだろう。文書では、プーチン大統領側近や習近平親族を含む多くの政治指導者の租税回避が明らかになっている。政治指導者が国富(国民の税金)を私物化し私服を肥やす一方で、国内では格差が拡大し、貧困層が苦しい生活を強いられている。
かつては独裁者が富や軍事力を支配し続けたが、今やネットで情報がシームレスに流通する時代。指導者の不正に対する国民の怒りは、新興国のみならず先進国でも拡がっている。米国大統領選ではワシントンのアウトサイダーだったトランプ氏やサンダース氏が台頭している。国家と市民の間で新しい「社会契約」を作り直す動きが世界同時多発的に始まっているのかもしれない。
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