トランプ最初の100日で見えてきた「戦後レジームの終焉」
3月半ばは、トランプ政権の主要閣僚らが世界を飛び回る外交に多忙を極めた週だった。ティラーソン国務長官は3月15日から日本、韓国、中国を訪問し、又、ムニューヒン財務長官は17〜18日に独バーデンバーデンで開催されたG20に参加した。17日にはメルケル首相がトランプ大統領を訪問。19日には安倍首相がメルケル首相を訪問。20日には日露「2+2」(外務・防衛担当閣僚会合)が開かれた。同日には韓国政府は、米軍の弾道ミサイル迎撃システム(THAAD)が韓国に配備されたことに対して、中国が韓国への経済制裁を取っている問題をWTOに対する協定違反の可能性を提起すると明らかにした。
ここに来て、トランプ政権が何を目指しているのか少しずつ見えてきた。これから「戦後70年の歴史」がアンシャンレジームになろうとしているのである。このパラダイムシフトは、米国が自ら築いた「戦後レジーム」を壊すところから始まっている。
1945年に第2次世界大戦終了し、すぐに米ソ冷戦が始まったものの、欧州の国力は疲弊し、国土が焦土とならなかった米国は圧倒的な産業力と富の力を有し、米国が戦後の世界秩序を作ってきた。米国の覇権は、ドルを基軸通貨とした自由貿易体制を拡大していった。この米国主導のパラダイムは、当然米国の国益に有利なルールで動いてきたのだが、いつの間にか中国やロシアが米国よりも優位な立場に立ち、米国のコントロールにチャレンジするようになってきた。
米国はあたかもちゃぶ台をひっくり返すように、自国に有利に機能しなくなった戦後体制を壊し、作り変えようとしている。たとえば、自由貿易体制の象徴WTO加盟国が集団となって米国の利益を損なう行動をさせないよう、WTOの枠組みそのものを壊し、加盟諸国を分断し、個別にタフな二国間交渉を実施する。だから、オバマ政権で推し進めたTPPはもはや不要となった。トランプ式の交渉スタイルでは、相手に対して徹底的に自国に有利なルールを押し付け、利益を確定していくやり方を貫くだろう。
トランプ政権始動から2ヶ月たち、「米国第一主義」の具体的な通商貿易、通貨体制に至る道筋がほんのりと見えてきた。あたかも霧の中から少しずつ姿を現して来るように、戦後レジーム終焉の後に来る新しいパラダイムも、トランプ政権開始から100日も経てば徐々に明らかになるだろう。ただし、米国内でも反トランプ勢力があり、このパラダイムシフトのトランジション(移行期)をうまく乗り切れるかどうか。
特に、トランプ政権スタート前からロシアが影を落としている。しかもプーチン氏は冷徹な戦略家で、中国をターゲットとするトランプ政権に懐柔しようと、選挙前からサイバー攻撃を仕掛けるなど米国の国内政治を揺るがすチャンスを虎視眈々と狙ってきた。本日(3月21日)の報道では、FBIはトランプ陣営とロシアとの関わりを7ヶ月も前から調査していることを正式に認めている。
国務省や情報機関のいわゆる国際関係に携わるプロ集団には「外交官ギルド」の存在がある。欧州の歴史において外交は長いこと王族や貴族の間で密やかに行われてきた。外交に携わる人々の多くはその筋の特権階級に属し、その地位は今でも代々受け継がれている。現在の米国でも外交筋や諜報筋のプロフェッショナルの間にはギルド的な連帯とプライドが存在する。こうした「外交官ギルド」の伝統と価値観に対して真っ向から挑戦しているのが、トランプの交渉スタイルである。トランプ政権は、彼らを敵に回してまでもビジネスとしての外交交渉を進めようとしている。「外交官ギルド」との対立が深まり、トランプが瀬戸際外交に突き進む時には地政学上、大きなリスクを抱えることになるだろう。
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