グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

コロナ共生経済下で、貧富の格差が拡大  日本は「ジャパン・ファースト」を急げ

 米国で話題のベストセラー、Deaths of Despair and the Future of Capitalism(絶望による死と資本主義の未来)はこの3月に出版された。著者は、ノーベル経済学賞に輝いたアンガス・ディートン博士と妻で経済学者のアン・ケイス氏である。

 コロナ禍で政府は経済活動を再開し、「労働力しか売るものがない」ブルーカラー(労働者階級)は労賃を得るために、コロナの恐怖の中、働きに出なければならない。同書の著者は、今後、貧富の格差が急拡大し、労働者階級の「絶望死」が増えると予想している。そして、これまで労働者階級を搾取してきた資本家層もまた、資本主義の行方を考える必要があると訴えている。

 さて、11月の米大統領選挙まで3ヶ月半となった。2016年の大統領選挙を振り返ると、トランプ氏を支持したのは、オハイオなど「ラストベルト地帯」(錆びついた中西部=かつての製造業の集積地)でIT革命後の経済成長から取り残された白人の低学歴の労働者階級だった。

 ディートン博士は、その前書The Great Escape: Health, Wealth, and The Origins of Inequality(2013年9月=翻訳「大脱出:健康、お金、格差の起源」2014年10月)で、貧困から脱出できない人々、特に働き盛りなのに雇用のない白人男性の多くが薬物依存で「絶望死」していると指摘した。彼らは、仕事とプライドを取り戻してくれるトランプ氏の「アメリカ・ファースト、MAGA (=Make America Great Again!)」の岩盤支持層となった。

 しかし今、コロナ禍で失業者が大恐慌並みに増加し、人種差別反対デモや暴動で、社会不安が高まっている。政治面でも、良識的な中道派が居場所を失い、極右対極左の対立が目立つ。

 下のグラフは、米国の労働市場への男性の参加率の推移を示している。米国ではリーマンショック後に参加率がガクンと減り、その後も低下している。コロナ共生で失業に加えて、家族の崩壊、コミュニティの崩壊など、極端な社会変動が続くと、「絶望死」が米国中で増加するだろう。

米国では腹き盛り世代の男性の労働市場への参加低迷が目立つ
出典:日経電子版

 私は4月に収録した動画で、コロナ禍で貧富の格差拡大がコロナ禍で急速に進むと述べた。(本文の最後で動画をご覧いただけます。)

アメリカにおける貧富の格差の推移

 下のグラフは、百年に及ぶ米国の貧富の格差の推移を示している。以下がポイントである。

  • 現在、最も富裕な0.1%が社会全体の20%の富を保有している。上位1%が40%の富を保有している。下から80%にあたる大多数の人々はわずか10%強の富しか保有していない。
  • 歴史的に見ると、大恐慌の1929-30年にかけて最も貧富の格差が拡大している。上位10%が社会の50%の富を保有し、0.1%が25%も保有している。
  • 1950年代から80年代にかけては、中間層が台頭し、富の偏りが緩和された。
  • 1970年代から「ボトム80%」が占める割合がデータで示されている(青い線)。この時期は、全体の20%にあたる「アッパーミドル」(中間層の上)が50%近い富を保有していた。比較的、中間層が社会の主流にしっかり存在していた。
  • ところが80年代終わりころからは、格差拡大が徐々に進んでいった。80年代後半から2008年リーマンショックの前まで、私は米国で暮らし、その間の多くのバブルの生成と崩壊を目の当たりにしてきた。そして、同時に、イラン・イラク戦争や9/11を体験してきた。この時期に、まさに両極分解が進んだ。
  • そして、目下のウィズコロナで、さらに下から60%の人々は、生きるすべさえ失うと予想されている。

 以上は米国の話だが、私は、日本でも同じようなことが起こると予想している。

 日本では、きちんと教育を受けたのに、就職氷河期やあるいはリストラで失職し、行き場を無くした人々が、いとも簡単に社会の底辺に追いやられてしまう。そして、いったんアンダークラスに押し込められると再就職がなく、貧困からの脱出も難しくなる。

 政府は補助金ばかりでなく、コロナ後を見据えて「ジャパン・ファースト」を掲げ、多くの人々に仕事を戻す必要がある。

ヘッジファンドニュースレター

コメントは締め切りました。