グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米中対立は続く

 11月11日は中国では「独身の日」、アリババが310億ドルも売り上げた。そして、同日、香港では警察とデモ参加者との衝突が激しくなり、ハンセン指数が2.62%も下落した。そんな中、米中は本当に歩み寄るのか? 

 先週、米中貿易協議で第1フェーズの合意期待から相場は積極的にリスクを取りに行く「リスクオン」へ転じた。米株価は上昇し、ドル高、円安、金価格下落となった。8日(金)には米中貿易協議で中国側が「関税巻き戻し発言」で先走り、9日(土)にはトランプ大統領が「米国はまだ何も合意していない」と中国をけん制した。

 米中貿易戦争の行方を見る上で、10月24日にウィルソンセンターで行われたペンス副大統領による対中政策に関しての演説は注目に値する。演説の内容は、昨年よりはトーンが穏やかで、「中国との対立は望んでいない」「関係の再構築fundamental restructuringを望む」と発言している。中国はこの誘い(口車)に乗って、前倒しで合意が近いという期待感を抱いたのかもしれない。

 問題は、演説が「ウィルソンセンター」で行われたという点にある。ウッドローウィルソンセンターはワシントンDCスミソニアン協会の中にある大変格式のある国際関係研究所で、エスタブリッシュメントによる超党派の外交方針が打ち出される場所である。

 筆者もこのセンターで1986年夏にクライド・プレストビッツのリサーチアシスタントとして数ヶ月働いたことがある。プレストビッツはレーガン大統領時代の商務長官特別アドバイザーとして日本との貿易交渉を担当し、のちに「米国はなぜ日本に優位を奪われたか」を分析した本”Trading Places”を出版し、当時の日本でも話題になった。

 このように、30年くらい前は「日米貿易戦争」が米国外交政策の主要テーマだった。米国はどうやって日本をやっつけるかを超党派で考え、実行した。今は米国にとって中国が敵で、ウィルソンセンターでのペンス副大統領の演説は、超党派「米国ワンチーム」として対中戦略を示したものと考えるべきだ。

 さらに付け加えると、ウィルソンセンターで筆者はその夏に、当時だいぶ高齢だったジョージ・ケナンの演説を拝聴した。国際関係史において、ケナンはレジェンドだ。1946年にトルーマン大統領に提出されたケナンの「X論文: ソ連封じ込め政策」は米ソ冷戦外交の基礎となった。その夏から3年後の1989年にベルリンの壁が崩壊し、間も無くソ連も崩壊した。この11月はベルリンの壁崩壊からちょうど30年になる。

 このように考えていくと、ペンス演説は中国を改心させようとする新たな政策とも解釈される。しかし、米国は中国が知的財産権と技術移転の問題で米国を裏切り続けてきた事実を胸に刻んでいる。米中のイデオロギーの違い、世界観の違いは明白であり、その溝が埋まることはないし、米国はそうした期待もしていない。その意味では、ペンス演説は中国への「最後通告」とも受け取れる。

 中国側が米国のメッセージをどう受け止め、そして今後、どのようなリアクションを示すか。関税戦争、金融戦争、香港問題もまだ何段階かのレベルで続く。

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