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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

日本の社会契約が根本から変わる!若年層よ 真剣に自立せよ!

 このところ政府による国民の金融リテラシーを向上させていく取り組み、「金融経済教育推進機構」が話題になっています。

参考 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230302/k10013996811000.html

 なぜ金融経済教育なのか?その裏には日本の年金問題があります。この点については、2019年5月22日の金融審議会市場ワーキンググループの報告案について、そして、「年金不足2000万円」について、以前より皆様にお伝えしてきました。

 そして、前号では政府の失政がインフレと戦争を引き起こす、その犠牲となり重い負担に苦しむのが若い世代であるとお伝えしました。米国ではバイデン政権の失政で、ミレニアル世代やZ世代に重い負担が来ることを記しました。そして、同じことが日本でも起ころうとしています。

日本の社会契約が変わる

 日本でも団塊の世代(戦後世代)とその親の世代(戦中派)は、戦後の高度成長に力を尽くし、政府からの福祉を十分に受けて、退職後も年金を給付され安泰な老後をおくられているようです。当時は、真面目に勉強して良い会社に就職し、真面目に働いて定年を迎える頃には家も建って安泰な老後が待っている(「サザエさん」一家の波平さんのような暮らしぶりでしょうか)、だから、子供たちに対しても自分たちの行動規範を教え込んできたのです。

 ところが、現状はとことん異なります。日本経済は1990年バブル崩壊から失速したまま「失われた30年」が続き、金利はゼロ、世界最速で超高齢社会が実現しました。その間、大方の厚生年金基金は人口減少やバブル期の投資の失敗もあり、解散したり先細っています。そこで、政府は確定給付から確定拠出へと、「自己責任型」の年金制度に切り替えようとしています。親の世代の言う通りにやっていったのでは将来がどうなるのか、若い世代が年金への不信感を持ち、社会の先行きに不安をつのらせるのは当然です。

 そこにきて政府が金融経済教育を推進するという今回の報道に到ったわけです。が、国民の感情としては、そもそも戦後から続いてきた社会規範、すなわち「真面目に働いて経済に貢献したら安泰な年金暮らしを政府が保証する」という「約束事」が変わる。この重要な社会契約の変更について政府は明確に開示し、国民の理解を得ていない。当然、この政策が国民に浸透できるかどうかは不透明です。

 私自身、「年金シニアプラン総合研究機構」理事を務め、退職を目前としたシニアのみならず、若年層(ヤング世代)にフォーカスしたライフプラン&マネープランの教育を進めるべく、活動してきました。武蔵野大学でも「資本市場論」を講義し、お金の仕組みや資産分散のポートフォリオ理論を教えてきました。多くの個別の運用相談や資産形成の助言にも応じてきました。そうした実践経験から言えることは、金融教育は政府が考えるように一筋縄ではいかない、お金の世界では教育を施せば政府の責任がなくなるということはありません。事実、投資で成功できる人は僅かです。

 まずは国民に対して「意識改革」を促すのが正しいやり方ではないでしょうか。若い世代が正しく前向きな意識を持って、自分の人生やお金に真剣に取り組んでもらう、これが自己責任を前提とした教育の「初めの一歩」ではないでしょうか。

米国のようにはいかない日本の事情

 米国では確定拠出型の「401k」制度が1978年から導入されてきました。米国人が日本人よりも優れた金融教育を受けているのか、あるいは優れた知識があるのかというと、実際そういうわけではありません。ただし、米国内には日本よりもはるかに魅力的な金融商品が溢れ、富裕層には日本よりもはるかに質の高いバイサイドに立ったサービスがあります。それほど米国の金融力は強いです。

 また、米国の一般の勤労者は、長期に経済成長してくれれば、株価も上昇して401kの運用機関も儲かり、安泰だと感じるでしょう。つまり、基本的に国民が「強い米国経済と金融力」に対する信用を寄せているから成り立ってきたと言えます。仮に米国で「失われた3年」が続けば政権交代になります。

 日本では戦後自民党が既得権益集団と利益共同体を形成し、岩盤規制を政官一体となって守ってきました。エネルギー供給事情を見てもほぼ統制経済であり、株式市場の大株主は日銀とGPIFなど政府機関といった「クジラ」です。

(注)日本の民間企業の株式を大量に保有するクジラについては、「国際金融市場、日本市場の見通し」(2016/2/25)をご覧ください。https://globalstream-news.com/post-18184/

 その意味では米国よりも日本経済の方がはるかに社会主義に近いです。社会主義体制であれば勤労者の福祉を保証するはずなのですが、勤労者の老後を支えるはずの年金制度を根本から変えるというのですから、日本の国民はこのままでは自己責任を押し付けられたまま困窮化します。

今後10年で負動産地獄と日本困窮化が起こる

 日本でも物価上昇が起こっていますが、インフレというよりはデフレ脱却という見方が主な感じでしょうか。それでも、日銀黒田総裁が続けてきた超緩和政策は、植田次期総裁の下では大きな修正を余儀なくされるでしょう。すでに長期債上限金利は0.5%を超えきていますし、長期金利が上昇すれば住宅ローン金利や企業融資の金利もさらに上昇します。しかも、政府は増税し、物価上昇が続き、日本でも米国と同じように、学資ローンや住宅ローンを背負う若い世代に生活窮乏化が拡大するでしょう。と同時に、格差拡大はさらに広がります。

 インフレは増税と同じで、景気を悪化させ、貧困化、社会不安を招きます。つい先日「負動産地獄、その相続は重荷です」(牧野知弘著 文春新書)を読みました。今、土地や持ち家といった資産があっても今後10年で相続が起こり、相続税、固定資産税などで若い世代にとっては負の資産と化すという内容です。資産の流動化、新しい証券化が必須です。そうしないと借金が子供に残り、家族は崩壊し、日本全体が困窮化します。

 なぜ、「ヒト、モノ、カネ」そして技術と高い民度のある日本がこれほど貧困化するのか?ひとえに「失政」です。思い切った政策転換が必要です。金融経済教育を推進する前に、相続税廃止、所得税廃止、消費税20%、法人税20%、加えて、地租改正を実施、空き家は地方政府にお返し、どうするか自治体で決めてはどうか。国家には外交、安全保障で頑張って貰えばよい。特に若年層はこれからの人生を人任せにしないでほしいです。

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