復興ファンドが防波堤になるか? モラトリアム法の堤防がなくなるとき
日本には基本的人権がない、基本的人権を定めた市民と政府の契約を現政府は守っていないし、守る気も能力もない。震災から2ヵ月近くもたつが、福島原発は収束していないし、仮設住宅もまったく足りていない。疲労の限界にきている避難民の皆さんにさらに半年も9カ月も我慢してくれというのは狂気の沙汰だ。
昨日地下鉄日比谷線で若いカップルの会話を聞いた、「日当9万9千円の仕事があるそうだけど、福島原発らしいよ。僕だったら1日2百万円を要求するね」。現場で働く人々の環境は想像を絶する。カップラーメンや缶詰の食事、堅い床での仮眠、被爆など、過酷な労働条件は欧米のメディアも伝えている。
ハイテクで優れた技術・経済力を誇る日本でなぜこのような事態が起こるのか、日本政府や東電はもっとも弱い立場の市民を守るどころか、弱い立場ゆえに抵抗できない彼らから真っ先に搾取し続けるのはなぜか?海外からみると「今まで見てきた日本は幻影にすぎなかった、では本当の日本の実態はどうなっているのか?」と疑念がわきあがる。
原発の悲惨な状況は経済・金融面でも津波のように日本を覆い尽くそうとしている。震災前から日本では潜在的な不良債権の問題があった。リーマンショックによる急激な信用ひっ迫で、多くの中小企業は資金繰りに窮した。当時の亀井大臣は「金融円滑化法(モラトリアム法)」をもって返済猶予期間を設け、一時的に中小企業を破たんから救った。
2009年12月に施行されたモラトリアム法は2011年3月までの時限立法だったが、1年延長され2012年3月までとなっている。リーマンショック後に中小企業に対して銀行が本業の再生に向けて手を差し伸べ、融資先企業が元気になっていれば「一時的な治療」による延命策も意味があった。実態はその逆で、銀行は債務者への貸付条件の変更等を申請しただけ。融資先企業は出血を止めたものの、改善の手立てもなく放っておかれている。
金融庁のホームページ「中小企業金融円滑化法に基づく貸付条件の変更条項」を見ると、モラトリアム法施行から2010年9月30日までの潜在的な不良債権が30兆円近く開示されている。来年3月にモラトリアム法が時効になると、潜在的不良債権は表に出てくる。銀行はこれに対して引当を積まなければならず、貸しはがしに加え、新規融資の取りやめ、銀行経営の圧迫、銀行株の下落など、一気に危機的状況に陥る。「国家の屋台骨」である金融にヒビが入ることになる。
しかも、震災後、中小企業は計画停電や風評被害等で、リーマンショック以上の大きな危機に見舞われている。地震・津波だけならまだしも、福島原発による経済的被害は周辺の県民の市民生活を根こそぎ破壊したのみならず、企業や経済にも多大な負の波及効果を及ぼしている。その被害総額は、地震・津波の10倍以上に及ぶと思われる。これを東電ショックというべきか。
東電ショックはこれからジワジワと波及し始め、やがて津波のような大きな破壊力になって日本を覆う。この数カ月で素早い手術が必要である。まず、東北震災地域を中心に、潜在的な不良債権の早期正常化と中小企業の再生を支援しなければならない。これは今のモラトリアム状態になってリスクをとれない銀行には無理である。そのため、リスクマネーの供給と企業再生の経験と実績のある国内独立系ファンドを動員する必要がある。
リスクマネーの供給には、これまでも企業再生支援機構(再生機構)や中小企業基盤整備機構(中小機構)が公的資金を手当てしてきた。しかし、官主導の資金は実際の再生に向けて効率的に運営されてこなかった。現場のプロの手元に資金が回っていないからだ。今こそ復興再生ファンドを一つにまとめ、官民挙げて活きたカネを回す再生プランが必要である。
そのプランとして、まず、企業再生に特化した民間の独立系ファンドを集めたファンド・オブ・ファンズ(FoF)を組成する。このFoFに公的資金を投入する。実務にたけたファンド数社がこの資金を受け取り、中小企業のエクイティを出資し、財務健全化と成長に向けて企業再生を実施する。そこに銀行が融資(=デット供給)することで、銀行の債権正常化も進む。FoF管理会社は従来の中小機構に民間のプロを加えた官民チームで運営できる。
企業再生は銀行の債権正常化と一体であり、金融システム安定のために復興ファンドの正しい役割が期待される。復興ファンドが正しく機能すれば、東電ショックからの金融不安という津波から経済を守る防波堤なるだろう。日本にはそれだけの財源も人材もある。ないのは知恵の回るおカネの使い方、その仕組みだ。仕組みは作ればできる。