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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

QEは金融政策の誤り

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 大手ヘッジファンドのレポート「QE(量的緩和)の効果は極めて限定的」を読んでいる。QEは日本、英国、米国で実施された。その効果を実証すると、株式市場をちょっと浮上させる程度だという。それでも、QEは続いており、市場は金融政策当局への疑念を強めている。

 米国では多くの家計の金融資産に株式が占めていることから、株価が上がると資産効果で個人消費が上向く傾向がある。これは気分的というか一時的なもので、失業率が下がり、家計の実質的なキャッシュフローが改善しなければ、持続的な景気回復は難しい。

 米国でもQEと相まってゼロ金利に近い状況になっているが、住宅市場が改善に向かっているわけではない。なぜならば、既に住宅価格がかなり落ち込んでしまい、家計に占めるエクイティ(住宅価格からローン借入分を差し引いた部分)がマイナスになっている。金利を下げても、人々は住宅ローンの借換えができない。また、銀行の経営悪化から中小企業へ貸し渋り、中小企業は借り入れができず、破たんの危機にさらされている。この辺の事情は米国のみならず、日本にも当てはまる。

 効果のない金融政策をなぜ、FRBは2013年半ばまで続けるのか。多くの市場関係者はバーナンキ議長に疑問を投げかけている。一方、米国の景気回復は脆弱ではあるが、既に底を打って回復軌道に入っている。NY在のエコノミスト、熊坂氏のCQMレポートによれば、消費者コンフィデンスは非常に弱いものの、GDP伸び率は上方修正され、リセッション懸念は遠のいている。

 こうした状況下でQE政策が続けば続くほど、市場関係者は政策当局への疑念をつのらせ、あらたな危機を招くと大手ヘッジファンドのレポートは指摘する。たとえば、目の前に迫る欧州ソブリン危機に対して、IMFが中心となり破たん懸念のソブリン債を買い支えるSPV(特別目的会社)を設定し、SPVが債券を発行して市場から資金を調達し、その資本で銀行を支援するといったこれまでにない政策をとるべきだという(この政策はRajan教授が提唱)。

 日本に目を向けると、ゼロ金利政策、円高阻止を目的とする一時的な為替介入など、市場で機能しない政策をずっと続けている。すでに国内の輸出産業は大打撃を受け、銀行も中小企業も危うく、3月末で潜在的な不良債権は45兆円近くに達している(金融庁統計)。おまけにタイの大洪水で、家電、自動車など日本の輸出産業が大きな被害を受けている。こうした危機的状況に対して、政府や日銀はなぜまともな政策が打てないのか。政策当局者への疑念からグローバルな投資家が投資マネーを引き上げる、国内から大量の資本逃避が起こる、こうしたシナリオが現実化しつつあるのに。

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