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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

「財政の崖」っぷち、危機迫る米国

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 私が最も信頼する往年のエコノミスト、アルバート・ウォジンローア博士のレポート(12月14日付)を読む。博士は元ボルカー連銀議長とニューヨーク連銀で机を並べ、その後ファースト・ボストンなど投資銀行でエコノミストとして活躍された。現在は米国の某ヘッジファンドのアドバイザーをしている。
 ウォジンローア博士の今年最後のレポートは「財政の崖からの転落」というタイトルで、その内容を以下、簡単にまとめてご紹介したい。博士は米国経済の先行きに危機感を募らせている。
 財政赤字削減のために米国は2013年に緊縮財政を実施する。この政策をどこまで実施できるかについて、当然、共和党も民主党も相当の政治的取引を行う。其々が党派の利益に走るだろうから、政治的な妥協は困難である。
 また、米国民は緊縮財政がどのように家計を苦しめるかについてほとんど実感がない。増税で可処分所得が減るだけではない。緊縮財政で政府は予算を削り、民間部門への発注も減らす。政府部門でも民間でも雇用は減ることになる。
 連銀の金融緩和のおかげで、長期金利が低く抑えられ、住宅価格と株価が浮上している。住宅市場が持ち直すにつれ、住宅、自動車、その他の耐久消費財の購入も増えている。しかし、そうした消費は貯蓄の切り崩しで賄われている。これからの増税によって家計が苦しくなるにつれ、個人消費は再び冷え込むと予想される。
 家計部門に加え、住宅市場が改善したとはいえ、緊縮財政で軍事費や地方政府の歳出が抑えられることから、企業部門の見通しもそれほど明るくはない。事実、設備投資は縮小してきている!金融緩和で今は収益が水ぶくれしているにもかかわらず、企業は個人所得が落ちこみ、消費が低迷するのを予想し、新規投資を控えているのだ。不況が目の前に迫れば、オバマ新政権の無策に対して不信任が高まるだろう。
 来年2013年に、政府は急速に借入を抑制せざるを得ない。その分は家計部門から増税の形で補うことになる。そのため、個人は買い物を控えるなど財布のひもを引き締める。借入、負債、そして収入も減ることになり、GDPも落ち込む。そうなると財政赤字はさらに悪化し、成長率も1.5%以下に制限されるだろう。
 赤字国債発行額の天井に突入することから、この制限を撤廃するのか、政府部門をシャットダウンするのかといったぎりぎりの折衝が数カ月ごとに繰り返されている。この合意なしに「財政の崖」を回避することはできない。いったん崖から落ちると、不況の出口は見えない。企業の設備投資がまったく沈んでしまうからだ。
 連銀はもちろん、この危機を認識し、金融緩和を実施しているのだが、それでは財政赤字が続く限り、金融緩和も続けることになってしまう。しかも、連銀は失業率6.5%を達成するまでインフレ率2.5%をターゲットに緩和を続けるという。
 これでは、高格付け債券の利回りは下がり続ける。その一方で、政府の歳出カットで電気代や交通費、教育費、医療費などは値下がりしないまでも給与が増えないため、相対的に生活費が徐々に上昇してゆく。失業率は高止まり、基本的な生活コストの上昇に加え、低金利・デフレ環境が待っている。その背後には強烈な金融緩和でインフレが醸造され、加え失業というスタグフレーションに突入するのではないだろうか。

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