2015年は日本にとって節目の年だった。戦後70年、世界中で地域紛争や戦争が続くなか、侵略や殺戮を受けずに、高度な経済成長を遂げ、平和と繁栄を最大限享受したのが日本国民である。
そうしたラッキーな環境を日本に提供した「戦後レジーム」は終わり、世界は新たな枠組みに動いている。この大きな国際社会の枠組みの変動について、私はこの8月に『この国を縛り続ける金融・戦争・契約』(共著、ビジネス社)に著した。世界の大勢が変わるとき、金融システムにも変化が起こってくる。2016年にはパラダイムシフトがいっそう顕在化してくるだろう。
その先には、エネルギー資源、食料、軍事、IT、金融、技術革新等の分野において、「米国の一人勝ち」が鮮明に見えてくる。その根拠として、今年最後のFRB利上げ、そして、米国が原油輸出国に転じ、「エネルギー独立」に踏み出したことが挙げられる。
米国「エネルギー独立宣言」の意味
米国は原油輸出を一部解禁した。OPEC、ロシア、イランなど産油国は減産をしないため供給過剰となり、原油安が続く見込みである。かつて、1970年代には二度にわたるオイルショックで、世界経済はインフレ不況に苦しんだ。特に日本では「狂乱物価」に見舞われた。
あれから40年。しばらくは原油や資源価格の高騰で70年代のようなインフレが起こる可能性は低いと見られる。産油国など資源輸出国にとっては赤字財政が重い負担となるだろう。彼らのバーゲニング・パワーは完全に下火となった。ダニエル・ヤーギン氏も「the party is over for oil」と語っている。
米国が原油輸出を開始したことで、インフレヘッジとしての金(ゴールド)の効果は薄れたのではないか。金価格も安値を付けている。
ニクソンショックとプラザ合意 円高へ
1971年には二重の意味で「ニクソンショック」があった。政治的なニクソンショックでは、米国が日本を頭越しに電撃的な訪中を果たした。国際金融面では、ドルと金との兌換停止で戦後ブレトンウッズ体制が解体し、変動相場制へと移行した。日本は安定した円安を支えた固定相場制の基盤を失った。
私は年明け以降、円高トレンドを予想している。これは、ドル安誘導政策で急激な円高となった1985年「プラザ合意」を彷彿させる動きとなるだろう。ただし、30年前の日本は円高不況を防ぐために超低金利政策をとり、国内ではバブル生成を招いたが、この種のバブルが再び起こることはないだろう。
FRBは今年最後に利上げに踏み切ったが、日銀とECBはFRBの代わりに金融緩和策を拡大している。折しも、日銀は先週金曜、新たなETFの買い入れなど金融緩和の補完を行ったばかりである。このとき、日経平均株価は515円上昇したものの、午後には366円安と乱高下した。日本の株価上昇を支えるエネルギーはあまり残っていないようだ。プラザ合意の後、日本から大量の資金が対米投資に向かったように、日欧の量的緩和でじゃぶじゃぶの資金が米国への投資に向かうだろう。
2016年の見通し
2016年は大きな節目になりそうだ。2016−17年には、朝鮮半島、南シナ海では戦争の兆候もある。ただし、ISとのやる気のないだらだらした戦いとは異なり、こちらのほうは短期で終結するだろう。
そうした国際情勢からも金融市場は波乱気味。ボラティリティは高い。12月に私はニューヨークに出張した際に10社ほどヘッジファンドを訪問した。多くのマネジャーは、2016年の予想リターンを低めに設定していた。彼らは、新興国市場やコモディティ関連はショート(空売り)のチャンスを狙っている。こうした相場環境では、ロングオンリーで投資収益を上げることは難しい。投資戦略にメリハリの効くヘッジファンドの出番となり、マネジャーの腕の見せ所となる。
また、円高トレンドとなることから、対米への証券投資、資本移動が活発になると見られる。力のある中堅中小企業はM&Aでグローバル化をはかるチャンスである。輸出産業型の大企業にとってはこれ以上の伸びしろがなく、抜本的な組織改革や思い切った経営改善が必要となるだろう。この動きはTPPの前哨戦であり、日本企業がグローバルな競争で生き残れるかどうかの勝負が始まる。
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