グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

中小企業への長期資金の安定供給が不可欠 メインバンク制度はもはや機能していない

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森田さん写真森田隆大さんは、20年来の仲間というか、格付け会社ムーディーズの同窓生です。

私は、1989年に、ウォール街に近いチャーチストリートにあるムーディーズ本社でアナリストの職を得ました。

私は証券化商品を各付けるストラクチャード・ファイナンス部に所属し、森田さんは事業会社格付けのアナリストでした。

 

その後、私はニューヨーク本社に残り、1990年に森田さんは日本に戻られ、自動車業界、電機業界など、東京電力を始めとする日本の主たる企業の格付けを担当されました。そして、2002 年には、日本と韓国の事業会社格付け部門の統括責任者に就任されました。

森田さんは、グローバル化の進むなか、日本の産業構造の変化と日本企業の競争力の衰退を事業会社格付けの立場から、ずっとウォッチされてきました。

グローバル化の中で、日本再生に向けて日本の産業構造をどう変革すべきか、「Mr.格付け」の異名を持つ森田さんに、お話を伺います。

 

<森田隆大 もりた・たかひろ 略暦>

1980年甲南大学経営学部卒業。83年ニューヨーク大学経営大学院でMBA取得後、83年から90年までファースト・シカゴ銀行シカゴ本店および東京支店で勤務。

 

90年からムーディーズ・インベスターズ・サービス本社及び日本法人で日本およびアジアの事業会社を担当。

2002年に日本と韓国の事業会社格付け部門の統括責任者に就任。

日本の地方債格付けも管轄。08年退職。
2010年より立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー。

埼玉学園大学大学院客員教授。

 

著書『格付けの深層:知られざる経営とオペレーション』(日本経済新聞出版社)は信用格付け必読の書。

 

大井: 森田さんとは25年に及ぶおつきあいです。この四半世紀で日本を取り巻く状況は大きく変わりました。政府はこの秋に向けて、成長強化戦略をまとめるということですが、本当に日本は大丈夫なのでしょうか?

 

森田: 成長強化戦略といっても、企業努力だけではなかなか解決できない構造問題があります。策はいくつもありますよ。しかし、決断に残された時間があまりないのです。

 

大井: 森田さんは東京電力の格付けもされてきましたね。日本経済の競争力の源泉は、やはり大企業に依るのでしょうか?例えば、ソニーやパナソニック、シャープなど一時は日本企業を代表するブランドでした。今はあまり元気がありません。

 

森田: 日本経済を根底から支えているのは、大企業では一部です。大部分は中堅中小企業です。「失われた20年」とグローバル化に伴い、こうした企業群は、競争力を保持はしているものの、業績不振に陥っているケースが多々あります。

 

大井: 業績不振には個々の企業の責任を超えた日本特有の理由があるのでしょうか?

 

森田: 競争力を再構築するには、長期の安定資金が不可欠です。そうした資金を必要とする企業にとって、調達が実に困難なのです。個々の企業というよりも日本の産業構造が再生・活性化しなくてはなりません。それなくしては、持続的な成長は不可能です。この意識が現政権も含め全体的に希薄ですね。

 

大井: 企業の資金調達といえば、日本では「メインバンク制度」のもと銀行借入が主流です。産業構造が変革できないのは、銀行制度が機能していないということですか。競争力を支えるのは資金、ということですね。

 

森田: 一部の上場企業を除き、今の企業の資金調達は実質的には株式発行と銀行借入に限られています。株式市場はバブル破綻以降、元気がありません。銀行借入は短・中期です。3年から7年にかけて長期の資金を確保することがとても困難です

 

大井: 企業がグローバル化のなか競争力を常に維持していくには、なぜ3−7年の資金を必要とするのですか。

 

森田: 企業や産業には栄華盛衰があり、いったん、競争相手に遅れをとると、競争優位性を取り戻すのにだいたい3−5年を要します。業績混乱期には株式市場から十分な資金を調達することは容易ではありません。企業も株価を維持しようと、短期志向が強くなりがちです。

 

大井: そうした困難な局面で資金を工面して上げ、企業の成長を助けるのがメインバンクの役割ではなかったのですか。

 

森田: じつは、銀行側の審査能力が低下しています。高度成長期の日本では、ソニーもパナソニックも新興企業でした。そうした企業の経営者の能力と事業の将来性を見込んで銀行は融資してきたのです。

 

しかし、今の銀行では硬直的な金融検査マニュアルに頼り、業績混乱期にあえて長期の貸付けや新規融資を受け入れるといった体制にはないのです。リスクマネーが回らないのはそのためです。

 

銀行は、成長の可能性のある企業が困っているときに手を差し伸べて、景気回復とともに利益を上げるというのはリスクが高いと考えます。

 

大企業でさえ、業績が低迷して信用力が低下した場合、資金調達に苦労します。

 

日本では社債による長期資金調達の道が閉ざされます。だから、返済期限の短い銀行借入に頼らざるを得ない。

 

こうした状況では、企業は長期的に競争力の再構築に主眼を置いた経営ができないのです。

 

大井: かつての高度成長期には、興銀・長銀を中心とした長期資金の提供者がいました。

興銀・長銀を中心に中長期の安定資金を供給する屋台骨がありました。

 

小泉・竹中による不良債権処理の際にこの大事な屋台骨が壊れ、産業育成に必要な機能を銀行が果たせなくなりました。

 

新たな信用創造が起こせず、過去20年以上にわたり日本がガラパゴス化し、国富が衰退に向かったと言えます。

 

中小企業がイノベーションを起こし、競争力を高めるには国の信用をバックに安定した中長期資金の供給が不可欠です。そうした資金があれば、企業は安心して設備投資を行います。グローバル競争では常に新陳代謝が起こります。

 

イノベーションのスピードが速いため、ちょっとした遅れを取り戻すにも企業に機会費用が高くつく。

 

欧米であれば、ジャンク債(信用格付けが低い債券)やアセットバック証券の発行で市場から直接、安いコストで調達しています。私はそうした証券化証券の格付けに携わりました。

 

森田: 本当にそうですね。メインバンク制度が機能した過去においては、競争力の再建が見込まれる企業に対しては、長期的な資金を銀行が提供してきました。これは他国に比べて日本企業の大きな強みだったのです。

 

しかし、今指摘されたように、銀行の貸出姿勢や能力が大きく変化しました。いったん業績不振に陥った日本企業は、ジャンク債市場、プライベート・エクイティ市場、証券化市場を利用できる欧米諸国の競争相手に比べて、資金調達面で構造的なハンディキャップを負います

 

日本の経営者は、ちょっとの失敗も許されない、激しい競争にさらされながらリスクをとれない、短期志向で株主に配慮する、そうした経営しかできなくなっています。なかなか苦しい立場にあります。

 

大井: 「先立つものはお金」ですね。日本の経営者もきちんとした資金調達がないと「貧すれば鈍する」で、ますます保守的な経営、内向きになっていき、ジリ貪です。

 

森田: こうした構造問題に対して、政府は正確な問題認識を持って有効な対策を取るべきです。

 

 

 

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