グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

FRBはテーパリングどころかさらなる緩和へ ~ 山広恒夫さんとの対談

 

今回のツワモノは、引き続き、アメリカ金融に大変お詳しく、
FRBウォッチャーとしても著名な、山広恒夫氏にお話を伺います。

バーナンキ議長は経済の構造変化により、雇用機会が狭められてきたことを認識できず、
金融政策で最大限の雇用確保ができると思い込んでいます。
景気が悪くなれば、その先にはバブル膨張から崩壊へと「いつか来た道」が待ち受けています。

山広恒夫(やまひろ つねお)

ブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局エディター。

1950年生まれ。

73年青山学院大学史学科卒業後、時事通信社入社、同社外国経済部、
ロンドン特派員を経て、
英ジェームス・ケーペル証券シニアエコノミスト、
共同通信社ロンドン特派員、ワシントン特派員、金融証券部次長を歴任。

2000年からブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局勤務。

FRBウォッチャーとして、ブルームバーグ・ニュース・コラム「ワシントン便り」
などで米国経済・金融政策について情報発信。

山広さんは『2014年、アメリカ発 暴走する「金融緩和バブル」崩壊が日本を襲う』
(中経出版)を出版され、米国発の金融危機を警告しています。

2014年、アメリカ発暴走する「金融緩和バブル」崩壊が日本を襲う (中経出版)

その他の著書:
『バーナンキのFRB』(共著)、
『オバマ発「金融危機」は必ず起きる!』(朝日新聞出版)

 

 

大井:  山広さんは、9月29日にブルームバーグに書かれた記事

「【FRBウオッチ】当局の景気判断ミスで市場が金融政策を代行(下)」の中で、
「テーパリングどころか、さらに緩和を迫られるだろう」と書かれています。

 

また、実体経済の実情をみると、失業率が改善しないなど、
米国経済には構想的なひずみがあると指摘されています。

 

山広さんは、経済構造の基本的なひずみを直視せずに、
異例な金融緩和を続けるFRBに警告を鳴らしています。
この辺りは、日本の今の景気対策にも大変参考になります。

 

山広 : バーナンキFRB議長は、9月18日のFOMC終了後、の記者会見で、

テーパリングについて、

「あらかじめ決められた予定はないことを強調したい。
データがわれわれの基本予想を裏付ければ、年内に始めることが可能だ」

と記者会見で述べました。

 

この発言は、なお景気拡大の加速を想定していますが、
住宅市場が勢いを失い、雇用や賃金の伸びが鈍化してきたことから、
新たな景気のけん引役は見当たらないというのが米国経済の実態なのです

 

大井: 経済の実態を見ずして、中央銀行が金融政策の舵取りを行うのは、
そもそもあってはいけないことだと思うのですが。

 

山広: もちろんFRBはあらゆるデータを分析しています。

しかし、バーナンキ議長率いる金融政策決定会議(FOMC)は、
過去の出来事をまとめた統計、それも最も景気に遅行する全国平均値を基に政策決定しています。

 

つまり、政策は、じっさいの景気循環に遅れをとっているのです。

 

米国の景気拡大は5年目に入っており、
それなのに全国平均の失業率がなかなか低下しないという理由から、
金融緩和の泥沼にはまり込んでしまい、出口を見出せずにいます。

 

大井: 雇用改善はオバマ政権の政治目標であって、人気取りの政策です。

 

失業率はそもそも遅行指数であり、政治に振り回された金融政策はいかがなものか、
金融政策の政治化 (politicization=政治的道具として不当に利用される) だと思います。

 

山広: バーナンキ議長は経済の構造変化により、雇用機会が狭められてきたことを認識できず、
金融政策で最大限の雇用確保ができると思い込んでいます

 

同議長や政策決定者が良くもらす言葉に
「雇用の回復は苛立たしいほどのろい」いうのがあります。

 

彼らは「優れた金融政策によりもっと早く失業率は低下して良いはずだ」
と思い込んでいるのです。

 

それなのに、「いつまでもさえない状態が続いている」ため苛立っているのです。
この苛立ちを解消させようと資産購入の拡大を実行してきたわけです。

 

さらにFRBは、社会の底辺にある経済的な事実ではなく、
統計をベースに資産購入を拡大してきました

 

金融当局が目安とする失業率についても、全国平均値にこだわり、
それで確認してから政策を打とうという姿勢を変えていません。

 

たとえば、失業率はなお高水準にとどまっていますが、
8月は7.3%と、過去1年間の変化を見ると0.8ポイント低下しています。

 

しかし、就職を諦めて労働市場から退出した人や、
フルタイムの就職口が見付からずパート職に甘んじる労働者も多く、
失業率の低下は額面通りに受け取れないのです。

 

現に、全米で最大の雇用を有するカリフォルニア州は
6月の8.5%をボトムに2カ月連続で0.2ポイントずつ上昇、8月には8.9% に達しています。

 

経済の実態をみると、住宅市場が勢いを失い、雇用や賃金の伸びが鈍化してきたことから、
新たな景気のけん引役は見当たらないのが実情です。

 

米国の実体経済は、景気拡大局面が5年目に入り、
その成熟期を過ぎて下り坂に向かう途中にあるのに、
金融当局はなおテーパリング開始時期に固執しています。

 

景気が悪くなれば、その先にはバブル膨張から崩壊へと「いつか来た道」が待ち受けています

 

そうなればテーパリングどころか、
ミネアポリス連銀コチャラコタ総裁が予言しているように
さらなる追加緩和が日程に上ってくると思います。

 

大井: 米国の「いつか来た道」というのは、
リーマン・ショックのような金融危機が繰り返されるという意味ですか?

 

山広: 大井さんは、さきほど経済の「政治化」と指摘されましたが、
景気後退、バブル破綻、といった流れは、政治のトレンドと比較するとわかりやすいでしょう。

 

全米供給管理協会景気指数(NY・ISM)景況指数によるチャートをご覧下さい。

背景は米国の直近歴代3大統領の任期を表しています。
3つのトレンドチャネルは、景気の減速過程(過去2回は景気後退に突入)です。

過去2回の○印の中心は景気後退入りを示します。
今回は2007年12月の前回景気後退入りと一致します。
2001年3月の景気後退入りの水準もほぼ同水準です。

山広さんチャート 2013年10月3日

 

クリントンは逃げ切りましたが、
ブッシュが就任直後に見舞われた初めの景気後退は前政権の責任です。
オバマ政権はまだ3年以上もあり逃げ切りは無理でしょう。

 

バーナンキ議長は景気後退が明確になる前に任期で辞めるでしょうが、
もはや責任は逃れられないところまできています。
グリーンスパン元議長と同じ運命が待っているように見えます。

 

大井:  今、「政府閉鎖」といった大きな不安材料があるなか、
多くの市場関係者は

「そんな大きな危機が起こるはずがないし、必ず回避するよう議会や当局が動くはずだ」

と考えています。

 

しかし、政治は「一寸先は闇」といわれています。
金融や経済が政治化されれば、金融・経済の行方もまた、「一寸先は闇」となりかねません。

 


 

バーナンキのFRB 『バーナンキのFRB』(共著)
オバマ発「金融危機」は必ず起きる! 『オバマ発「金融危機」は必ず起きる!』(朝日新聞出版)

 

 

 

 

 

 

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