グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

まだがもう、もうがまだ、株価上昇はいつまで続く? ~ 山広恒夫さんとの対談

 

ダウ平均株価は最高値を更新しています。日本の株価もまた連れ添って上昇しています。多くの投資家がテーパリング(緩和縮小)開始を懸念するなか、株高はいつまで続くのでしょうか?

引き続き、FRBウォッチャーとして著名な山広さん(ブルムバーグ、ワシントン支局)にお話を伺います。

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山広恒夫(やまひろ つねお)

ブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局エディター。

1950年生まれ。

73年青山学院大学史学科卒業後、時事通信社入社、同社外国経済部、ロンドン特派員を経て、英ジェームス・ケーペル証券シニアエコノミスト、共同通信社ロンドン特派員、ワシントン特派員、金融証券部次長を歴任。

2000年からブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局勤務。

FRBウォッチャーとして、ブルームバーグ・ニュース・コラム「ワシントン便り」などで米国経済・金融政策について情報発信。

著書『バーナンキのFRB』(共著)、『オバマ発「金融危機」は必ず起きる!』(朝日新聞出版)

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大井: 20日に発表された米小売売上高をみると、
10月は+0.4%で予想を上回ったと報じられています。株価は続伸しています。

 

また、今週木曜の感謝祭から12月25日クリスマスまでの約一ヶ月間、
米国ではクリスマス商戦の時期ですね。
ニュースでは個人消費が堅調のように見えますが、実態はいかがでしょうか?

 

リーマンショックの前の住宅バブルでは、
住宅を抵当に入れたキャッシュで個人消費が拡大しました。
今回も同様のバブルの恩恵を受けてクリスマス商戦が景気を押し上げるでしょうか?

 

山広: 住宅バブルは収縮に向かっています。
小売りも伸びているように見えるものの、実体は弱まっています。
添付の実質米小売売上高をご覧下さい(Chart 1)。

chart1

 

国民生活の収縮を裏付けています
20日発表の小売売上高からインフレを控除し、
さらに人口で除した一人当たり実質小売売上高です。
国民一人ひとりの生活が窮乏化していることがわかります。

 

アメリカの消費活動はインフレと人口増加が押し上げているもので、
FRBの大規模資産購入(LSAP)は経済活動とは無縁です

 

それどころか、資産価格の上昇により富裕層への富の集中が進み、
中低所得層が縮小しています
所得層別の統計があれば、中産階級以下はもっと急激な低迷を余儀なくされていることが
鮮明になるはずです

 

政府が各種統計の平均値しか作成しないのは、国民の怒りを恐れているからだと思います
所得・賃金統計も平均値だけでは実体はわかりません。
統計の細部や長期トレンドを見る必要がますます高まってきたようです。

 

大井: 実態とはかけ離れたところで統計数字と株価とが動いているわけですね。
真実を知るためには、どのような角度で統計を見ればよいでしょうか?

 

山広: 政府がいくら統計でお化粧しても、人々が見逃す項目を調べると、
経済の弱さがくっきりと浮かび上がってきます。

 

添付(Chart 2)は自動車を除く小売売上高ですが、前年同月比でタイムスパンを延ばすと、
ご覧のようにいつ景気後退に入ってもおかしくない状況にあることがわかります。

chart2

 

過去2本の縦線はそれぞれ景気後退入りした基点です。
驚くことに直近の2.4%増は景気後退が終わった2009年6月直後の5か月を除くと、
伸びが最も小さくなっています。
この縮小トレンドが続くと景気後退は避けられません。

 

ちなみに2001年3月の景気後退入りの時点では1.9%増、
前回の景気後退入りした07年12月はなんと4.5%増でした 。

 

大井: 個人消費や家計とは別に企業部門はどうでしょうか?
企業収益が良くなり、株価を押し上げていると言えますか?

 

山広: 企業在庫(Chart 3)をご覧下さい。

chart3

 

20日発表の企業在庫の前月比でまったく平凡なものですが、
1970年代までさかのぼってみるとこうも見事な軌跡を描いているのかと感激しました。
縦線はすべて、景気後退突入点を示しています

 

今回は2007年12月の景気後退入りとよく似ています。
意図せざる在庫の積み上がりが起こっているように見えます。
10年タームのチャートでご覧になられると、直近の動きと前回の景気後退入り前後が
よく似ていることがご確認できると思います。

 

大井: QE(量的緩和)のおかげで、新興市場で米多国籍企業の収益が保たれています。
テーパリングがあれば、その収益は自国に戻ることになりますか?

 

現在、米国の景気が堅調だという認識から株式市場が上昇し、ドル高・円安となっています。
この図式は今後見直しが入るということですね。

 

山広: 米国株も統計と同じように平均株価指数で先行きを見ますと、
出遅れる恐れがあるように思います。

 

例えば、ダウ工業株30種平均で7.1%のウェートを占める
2番目の大型株であるIBMは今年3月14日に215.8ドルの最高値を付けたあと、
10月21日には172.9ドルとほぼ20%も下げ、弱気相場入りしています(チャート4)。

chart4

 

同様に多国籍企業で優良機械株であるキャタピラーのピークアウトはより鮮明です。
最高値は昨年の2月で、安値では31%安まで落ち込んでいます。

 

一方、出遅れていたボーイング、さらに金融株のゴールドマン・サックスや
JPモルガンがこのところ上げ足を速めており、バブルの末期症状のように見えます。

(注:ブルーがIBM株の推移(右軸に株価)ピンクがゴールドマン・サックス、緑がボーイング、オレンジがキャタピラー)

 

テーパリングがあれば、既にバブル崩壊過程にある米国債が再び売られ、市場金利が高騰。
既に限界点にさしかかってきた株式バブル崩壊の引き金になりかねません

 

そうなれば、米国に資金が戻るということは考えづらく、
ご指摘の通りドル高・円安が修正される可能性の方が高いでしょう。
なお私はジャーナリストで、相場の予測を専門にしている者ではありません。
すべて私個人の見解として、ご参考にしていただければ幸いです。

 

大井: 貴重な情報・ご見解、インテリジェンスを有難うございました。

 

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