中国から放たれた「第三の矢」!

公開日: : ツワモノブログ | 

森田さんと私はかつて一緒に働いた仲間です。私は1989年に6月にニューヨークのムーディーズ本社ストラクチャード・ファイナンス部門でアナリストとして働き始め、森田さんは1990年にムーディーズ社で事業会社の信用格付けを担当、その後、東京に戻り、20年近く日本の主な事業会社(電力、自動車、鉄鋼など)の信用調査を担当されました。森田さんは、今や日本における信用格付けの第一人者といえます。
昨年、日本企業のグローバル化について森田さんと対談しました。今回は中国がいかにして製造業でグローバル化を狙うかについて、お話を伺います。前回の対談と合わせてご一読ください。

対談「日本企業はグローバル化で生き残れるか?」
http://globalstream-news.com/wp/tsuwamono/post-7529/

森田さん写真<森田さんのプロフィール>
森田隆大 (もりた たかひろ)
ワールド ゴールド カウンシル 日本代表

ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得後、ファースト・シカゴ銀行本店および東京支店勤務を経て、1990年にムーディーズ・インべスターズ・サービス本社にシニア・アナリストとして入社。以来、格付けアナリストとして多くの日本・アジア企業を担当、2000年に格付委員会議長を兼務、2002年に日本および韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任、日本の地方債格付けも管轄。2011年より現職。埼玉学園大学大学院客員教授。主な著書に『格付けの深層〜知られざる経営とオペレーション』(日本経済新聞出版社)、『信用リスク分析―総論』(共著、金融財政事情研究会)、『資本市場と電力』(共著、電気新聞ブックス)などがある。

 

「中国制造2025」について

マーケットでは8月最後の週に上海総合株式の急落を受け、中国発「ブラックマンデー」が世界同時株安の元凶のように伝えられました。中国の金融市場は実体経済を反映しているのか、あるいは、中国経済はじっさいどのくらい減速しているのか、そうであれば、中国政府は今後のどのような国家政策を考えているのか、AIIB(アジアインフラ投資銀行)は中国経済の上げ潮対策となるのか、などなど次々と疑問がわいてきます。
じつは、今年5月9日に中国は或る重要な方針を公表しました。ひと言で言うと「中国国家百年の計はものづくり」。これから中国はものづくりの産業政策を基盤に国を興していくという決意表明です。具体的な内容は、「中国制造2025」で公表されています。

http://www.miit.gov.cn/n11293472/n11293877/n16553775/index.html

 

私は中国語ができませんが、中国語も完璧なる森田さんが「中国制造2025」(以後「中国製造」と表記)を読み解き、企業年金9月号の「なんでもアナリストのつぶやき」コーナーで「注目すべき「中国製造2025」」でその概要をすでに紹介されています。
日本人が持つ中国脅威論、あるいは、「どうぜ中国は安い模倣品しか作れない」といった思い込みを超えて、中国の決意表明は日本にとって何を意味するのか、今後の中国動向についてお話を伺います。

 

2035年までに日本レベルの製造開発力を持つ

大井: 森田さんは「中国製造2025」及び関連資料をすべて原文で読まれましたね。まず、何が書かれているのかを教えてくれますか?
そして、共産党独裁の国家の方針ということですと、どうしても単なるプロパガンダではないかと穿った見方をしてしまいます。この点はいかがでしょうか?

森田: まず、はっきり言ってプロパガンダではないです。中国工業部で公開されているHPを見て頂いても分かるとおり、非常にしっかりした内容です。なによりも「中国製造2025」を新たな産業革命として最重要国策の一つと位置づけ、決死の覚悟で実行するのだという決意が見て取れます。
さっそく、その内容についてまとめてみましょう。
まず、世界の製造業の強い国(製造強国)を三つのグループに分け、これから10年で一段ずつ登り、30年で三段階をクリアし、最強国に上り詰めるという高い目標を掲げています。
(1) 2025年までに中国製造業の競争力を質と量の両面において、製造強国入り出来る程度(韓国や台湾のレベル)まで高める。
(2) 2035年までに製造強国の中程度の実力(日本のレベル)を目指す。
(3) 2045年の建国百年時には世界の製造業をリードする地位(米国と同等のレベル)を確保する。

IMG_4738_03

大井: 立派な国家百年の計ではありませんか。

森田: そうです。「中国製造2025」には、産業構造改革、企業組織改革、経営改革、資源配分改革、研究開発改革、多分野技術融合改革、生産技術改革、品質改革、環境保全対策、人材改革等が重視されているだけでなく、優先すべき10大重点領域・分野も具体的に列挙されています。
・ バイオ薬品および先端医療機器、
・ 新材料、
・ 農機、
・ 電力システム、
・ 省エネ・新エネ自動車、
・ 先進鉄道・交通システム、
・ 海洋開発設備・先進船舶技術、
・ 航空・宇宙システム、
・ 先進コンピューター・ロボット技術、
・ 次世代通信システムです。

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大井: まさに、日本が目指す競争分野と重なっていますね。

森田: はい。ただ、日本とのちがいはその必死度だと思います。中国は行政の最高機関である国務院が方針を出し、共産党は当然、国を指導するこの方針を後押ししています。そこで、もっとも注目したいのは、中国政府の現状認識で、自らの後進性、弱点を冷静に列挙しています。
1.中国の製造業は世界水準に比べ規模は大きいが強くない、
2.自己開発・創新能力が低い、
3.コア技術・先端生産設備の対外依存度が高い、
4.品質が必ずしも高くなく、国際的に知名度が高いブランドが欠如している、
5.産業構造が不合理である、

6.資源利用効率が低く、環境保全問題が不完全である、
7.通信技術の水準がまだ低く、産業のIT化が遅れている、
8.企業の国際化・グローバル経営能力が不足しているなど。

大井: たしかに、率直で、適格な自己分析・自己批判ですね。

森田: だからこそ、中国政府は本気だし、プライオリティの高い政策だと受け取るべきなのです。行政のトップである李克強氏は命がけでこの政策を実施します。また、「中国製造2025」に関係する文件を読むと、中国政府が他国製造業について相当程度の研究を行ったことは明らかです。

大井: 戦後日本では「傾斜生産方式」が高度経済成長を促しましたし、当時吉田首相のブレーンだった大来佐武郎氏のような優れた通産省官僚の存在もありましたね。

森田: 中国は、日本やドイツの戦後の経済復興をよく研究しています。傾斜生産方式では、資金も含めたリソースを重点的分野に集中投下するわけですが、注目すべきは、「中国製造2025」の検討と同時期に、中国政府がシルクロード基金(総額約400億ドル)構想およびアジアインフラ投資銀行(AIIB)構想(資本金1,000億ドル)を打ち出したことなのです。
この二つの構想は、「中国製造2025」を事業面・資金面で後押しすることを意識した政策でもあるのです。ここに中国政府の「中国製造2025」に対するコミットメントの強さを感じます。

大井: AIIBやシルクロード構想は、戦後の英米主導で作られたIMF/世界銀行といったパラダイムをシフトさせ、中国がユーラシアの要になるという野心的なものだと思います。そして、中国がアジアの中で輝くためには、日本のものづくりを自分の物にしたいと考えていると思うのです。
私は、質へのこだわりといった日本のものづくりのメンタリティーは文化や伝統に深く根ざしていると思います。ですから、中国が日本と同じようなメンタリティーというかエートスを持てるかどうかは分かりません。いずれにせよ、日本の製造業にとっては大変な脅威です。

森田: 今、中国では実際、多くのグローバル企業が育っています。フォーチュン誌が世界企業500社を番付したさい、トップはウォルマートをはじめ米国企業で、ランクイン数128社で米国が1位でしたが、中国は106社と2位です。ちなみに日本企業は54社で、中国はグローバル企業を日本よりも多く輩出しているのです。

http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20150724/Recordchina_20150724034.html

中国は、さらにプロセス革命を起こし、技術を学ぶ速度を加速化しようとしています。以下の項目の強化を目指すとしています。

(1) 創造力
(2) IT化
(3) 構造改革
(4) 環境
(5) 設備投資(3Dプリンターなど)

大井: 中国の成長戦略は、アベノミクスで未だに放たれていない「第三の矢」ではないかと思います。日本では経産省がクールビズを流行らせたり、総務省が地域おこしに邁進し、農林水産省がアグリビジネス・ファンドを立ち上げたりと、各省がちぐはぐ・バラバラです。一方、中国のやり方は、中央集権的、一気呵成、上から下へとスピーディに政策が実行されそうで、その意味では効率的で合理的です。実際の改革の実施はどのように行われるのでしょうか?

森田: 政策実現に向けて、中国では国家レベルの委員会が立ち上がっています。一つは実務に近い人々が集まり、副総理が組長を務める委員会と、もう一つは専門家をブレーンとする戦略諮問会議のような委員会で、実務の進ちょく状態をチェックし、白書として報告していきます。実務と戦略とが両輪となって前進していきます。
さらに、国家の掲げる目標を実現するためのプロセスが、10大重点領域の具体的な目標がそれぞれ詳細に示されています。そうしたマクロ政策について、各省、地方政府がどのようなプロセスで実務に取り組んで行くのか、そのステップが具体的に示されています。

大井: いわばロードマップがしっかりと示され、地方政府など担当レベルの現場では何をどうすべきかが、ステップバイステップで明確化されているのですね。

森田: そうです。国務院の長、李克強氏は、常に進ちょく状況に気を配ります。地方政府が掲げた目標にどのくらい近づいたのかは逐次ネットで公開されます。遅れをとるとプレッシャーがかかるでしょうね。実際、ネットでは「ここまで達成した」といったたくさんの報告が上がって来ています。

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大井: ところで、資金の手当や中小企業への融資などはどういう状況でしょうか。もっとも中央集権国家ですから、人民銀行や主要な銀行が資金を出せば問題ないのでしょう。このところの上海総合指数の下落などからみても、民間企業が元気になって株価が上がったほうがよいわけですね。

森田: 日本では中国の非効率的な国営企業のイメージが強いですが、今や経済活動の主体は民間企業です。また、中国の株式バブルで投資家の7割を占める個人投資家が損失を抱え、大変な目にあっているという報道が多いのですが、本当は実体経済を改善し、株価を健全化に向かわせるという政策でもあります。

大井: 実体経済から取り組むやり方は、単なる量的緩和よりもずっとまともだと思います。アベノミクスでは三本目の矢は幻だったのかもしれないと言われているのに、中国では実際巨大な矢(成長戦略)が放たれたのですね。今後の中国の動向は、日本企業には良い影響を与えるでしょうか?

森田: これから中国では大規模な業界再編が起こります。「産業構造が不合理である」という現状認識から出発して、10大重点領域で一業種数社が生き残るような産業構造に変革するのです。つまり、10セクターでグローバル企業数十社がそれぞれの分野で輝けばよいというわけです。
企業買収や吸収合併(M&A)が進み、非効率的な国営企業や民営企業は淘汰されるでしょう。そうすることで、経済の規模を追求し、資源を効率的に配分し、グローバル競争で生き残る企業を育成するのです。
こうした業界再編において、特に高い技術力を持つ日本の中小企業にビジネス・チャンスはあると思います。

大井: ビジネス・チャンスというか、戦いですね。中国よりも先に成長し、優れた技術を開発しなければ、日本は中国に呑み込まれてしまいます。
森田さんは、昨年の対談「日本企業はグローバル化で生き残れるか?」で、日本企業はグローバル競争の手前の国内の競争で消耗してしまっている、系列や国内シェアでエネルギーを消耗しているうちに、お家芸の家電やハイテクはボリュームゾーンで生き残れず、今や自動車産業しかグローバル市場で戦えないとコメントしていますね。

森田: そうです。あの対談のとき、私の念頭にはサムソンなど韓国企業がありました。日本にはたしかに優れた技術はあります。それは優れた技術者がいるからです。そして、日本の名だたる大企業は、トップクラスの技術者を失ってきました。優れた人材を大事にしないために韓国企業に技術者を引き抜かれていったのですね。
そして、中国に関しては、これまでは日本企業とJVで日本の優れた技術を中国に移転するという形が主流でしたが、このフェーズは変わろうとしています。中国企業も、韓国のように日本の優れた技術や人をカネで買おうとするでしょう。

大井: 日本企業も社内の権力抗争や内ゲバをやっている場合ではないですね。中国が放った第三の矢がこちらに向かって来ますから、日本は優れた技術者を守り、中国とのビジネスで稼ぎ、その稼いだ資金を敵よりも速くR&Dにつぎ込んで成長を加速させなければサバイバルできません。

森田: これまで、韓国も中国も大手企業の技術者をハンティングしてきました。日本の企業のなかで冷遇された技術者は、他国で歓迎され多くの技術を持っていきましたが、このフェーズも変わろうとしています。今度は、製品開発者や現場で優れた技術を持った工場長とか、そうした実務レベルの優秀な技術者の引き抜きが始まっています。このような技術者が根こそぎ移されてしまうと、日本はもう生きて行けません。それなのに、大企業は自社の技術者や下請けを冷遇しているケースが多く見られます。

大井: トヨタにもモノ言えるアイシンやデンソーのような強力な製品・技術提供企業が増えるとよいですね。

森田: 加えて中国のスゴさは、IT技術と製造業の融合を図ろうとしている戦略にあります。李克強氏はインターネット網の整備と21世紀の新しい製造業の展開を同時に押し進めています。

大井: なかなか賢いですね。中国の外圧を利用して日本も改革を押し進めることが急務です。自分から打つ矢はない、しかし、敵の矢が飛んでくるとなると、これは成長戦略では負けられない。敵も必死ですからね。
森田さん、中国について貴重な分析と見通しを有り難うございました。

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