10月29・30日に行われたFOMC(連銀による金融政策決定会議)では、
テーパリング(緩和縮小)は見送りとなりました。
10月のADP民間雇用統計は予想を下回り、
実体経済の弱さを裏付けするものとなりました。
再び、「FRBウォッチャー」として著名なブルンバーグ・ワシントンD.C.支局の
山広恒夫氏に直近のお話を伺います。
山広恒夫(やまひろ つねお)
ブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局エディター。
1950年生まれ。
73年青山学院大学史学科卒業後、時事通信社入社、同社外国経済部、ロンドン特派員を経て、英ジェームス・ケーペル証券シニアエコノミスト、共同通信社ロンドン特派員、ワシントン特派員、金融証券部次長を歴任。
2000年からブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局勤務。
FRBウォッチャーとして、ブルームバーグ・ニュース・コラム「ワシントン便り」などで米国経済・金融政策について情報発信。
著書『バーナンキのFRB』(共著)、『オバマ発「金融危機」は必ず起きる!』(朝日新聞出版)
大井: 山広さんが以前の対談で指摘されたように、
米国の実体経済は弱く、テーパリングはどんどん先送りとなり、
金融緩和が続くとの見通しから株価は上昇しています。
このマーケット・サイクルは一体いつまで続くのかという警戒感は高まっています。
しかも、来年1月にはイエレンさんがFRB初の女性の議長に就任します。
2月には「債務上限」や「政府閉鎖」問題がぶり返します。
このタイミングで緩和縮小が始まるのでしょうか?
山広:政治の混迷もさることながら、実体経済は強くなるより、
一段と弱くなる可能性の方が高いでしょう。
そもそも、景気拡大局面が4年目に入った昨年9月に、
住宅ローン担保証券(MBS)を購入する量的緩和第3弾(QE3)に突入、
さらに12月から米国債の追加購入にも踏み切るなど、
緩和の行き過ぎは明白です。
FRB主流派が主張するように景気が一段と強くなるまで
テーパリングを始めないというのであれば、
その時期は永遠に訪れないでしょう。
本日は時間が限られておりますので、次回に詳しくお伝えいたしますが、
米国は既に低成長時代に突入しているからです。
景気循環の観点から、ADP民間雇用統計をみますと、
金融業界の雇用者数は6月の7867万人でピークアウトしています。
<グラフ:ADP民間雇用統計の金融部門>
前回の拡大局面では2007年4月にピークアウトして、
その6か月後の07年10月に株価がピークアウト、
12月に景気後退突入となりました。
経済実態は変化していますので、何とも言えませんが、
単純にあてはめると、今回は12月に株価ピークアウト、
来年2月に景気後退突入となります。
なんと、連邦政府暫定予算と、債務上限の期限と一致します。
あるベテラン為替ディラーの方は「悪いことは最悪のタイミングで起きるものです」
と話しておられましたが、そのリスクは十分ありそうです。
警戒するにこしたことはないでしょう。
大井: まさに「パーフェクト・ストーム」への警戒体制ですね。
米国では11月の第三木曜が感謝祭で、
そこからクリスマスまでは家族と過ごす休暇モードに入りますね。
ヘッジファンドもその前に利益確定して、手じまいをします。
となると、来年早々、大きな危機の予兆があると考えられます。
山広: 危機 、CRISISの語源はギリシャ語で「別れ道」だそうです。
どちらに向かうか「決断」すべき岐路なのでしょう。
07年末から始まった危機では大手金融機関への公的資金注入、
大規模財政出動、FRBの異例な金融緩和という弥縫策で
旧来の道を強引に引き延ばしてきました。
従って、早くも岐路に直面しつつあるわけです。
今度は弥縫策が効かないため、本当の改革を迫られることになりそうです。
大井: イエレンFRB議長は、就任直後に大きな決断を迫られるわけですね。
私は、彼女は英断を下すと思います。
本当に米国の将来を考えて、中途半端な決断はしない人だと思います。
イエレンさんは金融界のサッチャーとなるべき人です。
山広: FRBは来年、創設100周年を迎えます。
FRBは1907年の金融パニックの再発を防止するため創設された連邦機関です。
イエレンさんは新たな世紀に向けて岐路に立つFRBをどちらの方向に導くことになるのか、
大変大きな使命を帯びることになります。
次のパーフェクト・ストームのタイミングについて、
米中古住宅販売成約指数から推し量ってみます。
この指数は2001年=100です。
ことし9月は101.6。ピークは2005年4月の127です。
今回の景気拡大局面では13年5月の111.3がピークです。
この月からバーナンキ議長が景気の頂点で強気になってテーパリングを唱え始めたわけです。
FRBは歴史的にみて優れた景気一致指数です。
景気拡大とともに金融政策を拡大してきたわけですから、
バブルが膨張して当然です。
その前のピークは10年4月。第2回住宅減税の締め切りと一致します。
その前は09年10月でした。この月は第2回住宅減税の締め切りの前月に当たります。
今回の景気拡大局面では初めの2回が財政・金融バブル、
3回目が量的緩和拡大によるQEバブルと言えるでしょう。
前回の景気拡大局面の住宅・金融バブルは2005年末から崩壊(縦長の四角)が始まり、
2段階に分けてみることができます。
そして第2段で月間の低下幅が広がります(○印)。
この月間下落幅は今年9月とほぼ同率です。
オバマ「財政バブル」破裂時の下落率が強烈なのは、
減税という明確なエサで需要を釣り上げた反動でしょう。
さらに、FRBが量的緩和(QE)により押し上げを図りましたが、
実体経済が疲弊しているため、今回のバブルは同成約指数で110超が限界となり、
崩壊へと向かっているように見えます。
この結果、今回の景気拡大局面では同指数110超で三つの山が形成されています。
三つ目の山は期間も長く、弱いとはいえ、残された需要を無理に引き出し
て膨張させており、最終バブル崩壊となる可能性が高いでしょう。
いずれにせよ、ここから株は上げれば上げるほど、
下落に転じた時の衝撃が大きくなってくると思います。
再び危機が訪れることは避けられそうにありません。
<グラフ:中古住宅販売成約指数>
大井: 今はまだ「嵐の前の静けさ」、要注意ですね。
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