8月14日、ダウ平均株価が800ドルを超える大幅下落となった。ニュースは「逆イールド」で景気後退感が高まったためと報じている。
このコラムでも、逆イールドについては何度か警告してきた。
- ‘Insurance Cut‘で市場は不安定化する(https://globalstream-news.com/20190610/)
- 不気味!逆イールドの出現(https://globalstream-news.com/20181205-1/)
今回の大幅下落の裏には、逆イールドよりもむしろ「香港情勢の緊迫化」という地政学リスクの高まりがあると私は見ている。
14日、トランプ大統領はツイッターで「中国との国境線に軍隊出動準備」とつぶやき、また、同日、米国議会外交委員会のエンゲル議員とマッコール議員による緊迫化する香港情勢についてプレスリリースが出た。内容は、30年前の天安門事件のような残虐な軍の介入を控えるようにとの中国政府への警告である。
参考記事(Engel, McCaul Statement on Hong Kong https://foreignaffairs.house.gov/2019/8/engel-mccaul-statement-on-hong-kong)
米国の対中政策は日々あの手この手で締め付けたり緩めたりで、マーケットもそうした影響を受けて「政治相場」の様相である。
8月13日、トランプ大統領は中国に対する関税対象品目のうちスマホや衣類などについて関税発動を12月15日まで延期すると述べた。クリスマス商戦への影響を少なくするとの配慮からだ。NY市場は、この好材料で400ドル近く上昇した。
株式相場を振り返るとグラフ(S&P500)からも見て取れるが、この1年くらいは、ドタバタの政治相場である。昨年10月から12月にかけて米中貿易戦争が深刻化し、GAFAなどIT銘柄が集中的に売り浴びせられ、12月には相場は大幅に下落した。そして、年明けから4月末まで相場は上昇、5月に下落、6月から7月末まで上昇し、8月には下げに転じた。
この値動きの荒いトレンドの裏に、じつはヘッジファンドの主要な戦略、ロング・ショートの異変が見てとれる。
ヘッジファンドは、ロングオンリー(買い持ちしか出来ない)の投資信託と異なり、トレーディングは「両建て(ロングとショート)」の戦略をとる。つまり先行き強気であればロング、弱気であればショート(あらかじめ空売り)し、相場動向とは関係なく一定のリターンを上げるテクニックである。
そして、我々は、ヘッジファンド全体が今後の相場動向をどう見ているかを示す数値、「ネットレバレッジ」(ショートに対するロングの割合)に注目するのだが、このところこの数値が低く推移している。米中貿易戦争が通貨戦争に発展する中、ヘッジファンドは不透明な先行きを懸念して弱気なのだ。しかも、米中通貨戦争は始まったばかりで、これからもっと深刻化する。
一方、ヘッジファンドはロングもショートもポジションを増やしており、グロスレバレッジの値は上昇している。(1) グロスレバレッジとネットレバレッジの差が拡大している。(2) しかも、ロングポジションが少数の銘柄に集中している。この2点に注目すべきだ。
参考記事(Hedge Funds Turn Most Bearish Since 2016, Hone Stock Bets https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-08-07/hedge-funds-turn-most-bearish-since-2016-hone-long-stock-bets)
ヘッジファンドの集団行動が目立つ場合、相場は群衆心理に左右され、一方方向に強く動く。例えば、昨年10-12月にGAFAが集中的に売られたが、この時のように、ヘッジファンドがロング集中銘柄を一方的に売り浴びせられると、相場が大きく下落してしまう。
また、13日のトランプ発言のように、ちょっと良い材料が出ると、市場は反発するのだが、この時にショートカバー(空売りのポジションを買い戻す動き)でその反発力に弾みがついて過剰に上昇し、まるでジェットコースターのような目まぐるしい動きになる。特に薄商いのお盆休みではこうした動きが増幅しやすい。
8月12日付FT記事「真夏の恐怖」が話題となっている。大型台風がお盆の日本列島を縦断するどころの恐怖ではない。
参考記事(Braced for the global downturn https://www.ft.com/content/70f043c2-b9f3-11e9-8a88-aa6628ac896c)
しかも、恐怖も始まったばかりだ。直近気になるのは、香港、北朝鮮、イラン情勢、さらに、アルゼンチンのペソ暴落、英国版トランプのボリス・ジョンソン新首相による「合意なき離脱」など、終戦記念日から8月末まで「波高し」。日経平均株価も2万円を割る可能性があるだろう。世界の株価が急落する中、日銀の株価買い支えがどこまで効き目を発揮するか。
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