「1998年ロシア通貨危機で起きたことと、それまでの流れ」を5回シリーズでお送りします。今回は第3回です。第2回は私募金融市場とヘッジファンドが拡大する米国の資本市場の歴史よりご覧になれます。
世界の金融市場がQEバブルで涌く中、確実にバブルの終わりはせまってきています。1998年に起きたロシア通貨危機によってマーケットはどう動いたのか、1990年代に大きく拡大したヘッジファンドはどうなったのか。過去の大きな危機から、これからのマーケットがどうなるかを考える際の一助になればと思います。また、4・5は当時の、実際のトレーダーに焦点を当てたコラムです。お楽しみに。
目次
- 1998年ロシア通貨危機で起きたことと、それまでの流れ
- 私募金融市場とヘッジファンドが拡大する米国の資本市場の歴史
- ヘッジファンドとは
- 次々と行われた法・税制面での抜本的な改革
- ヘッジファンド拡大期に多様化した運用手法
- 金融危機に乗じるハゲタカ・ファンドの役割
- ロシア危機で儲けたハゲタカ・ヘッジファンド
- ハゲタカファンドは再生屋
- 金融危機を生き延びた者
- 金融危機に沈んだもの
ロシア危機で儲けたハゲタカ・ヘッジファンド
1998年のロシア危機は、多くのヘッジファンドを破滅させた。しかしその裏で儲けたヘッジファンドもある。グラマシー・アドバイザー社もそのひとつである。グラマシーは発展途上国の発行する国債に特化したヘッジファンドで、マンハッタンのグラマシーと呼ばれる一角に本拠を構えていた。彼らのビルには、世界的に有名なモデル・エイジェンシーの事務所が入っており、グラマシー・ファンドの運用者たちは、光り輝くスーパーモデルたちと毎日、同じエレベーターに乗り合わせることを至上の喜びとしていた。
前述したように、1998年8月末、ロシア通貨で発行された国債がデフォルト(債務不履行)を起こした。国家が投資家に国債の利息を払うのを停止する緊急事態である。一国が自らの通貨建てで発行した国債の利払いすらできなくなってしまうという事態に、大きなショックが世界の金融界を巡った。
デフォルトを受けたロシア国債の投資家は団結して、ロシア政府を相手に債権者委員会を結成した。しかし、ロシア政府は、旧ソビエト連邦が発行した債券だと主張し、責任を取ることに消極的だった。このころロシア国債は6セント(額面の6%)にまで値を下げていた。
グラマシーはロシア国債の価値を22~25セントとみていたので、6セントで買いに入った。と同時に、ロシア政府との交渉において債権者委員会のリーダーシップを握り、政治的なしがらみのない客観的な立場から交渉のプロセスを透明化し、多くの投資家を味方につけていった。
これまで発展途上国でデフォルトが起こると債券価値はゼロになった。もちろん、デフォルトがなければ額面でもどるということで、ゼロと100の中間は存在しなかった。しかし、交渉に多くの投資家が参加することでロシア国債も適正な価格で取引されるようになり、交渉が進むにつれ価格も35セント以上に戻した。6セントの買い物が35セントにまでなったのだから、グラマシーの儲けは大きかった。
ハゲタカファンドは再生屋
こうした破綻証券へ投資するヘッジファンドは、死んだ獲物をついばむ「ハゲタカファンド」と称され、どこかマイナスのイメージが伴う。たしかに、デフォルトをおこした企業や国を安く買い叩く姿は、ハゲタカのように映るかもしれない。しかし、デフォルトからの脱却には並々ならぬ努力とノウハウを要する。安く買い、高く売るというのは儲けの鉄則ではあるが、いかに価値を高めるかが、ディストレスト・ファンド運用者の腕の見せ所である。
日本に関係のあるディストレスト・ファンドとしては、長銀を引き受けた米国のリップルウッドが有名である。日本国内では救済の引き受け手がなかった長銀を、リップルウッドはフェアな入札で買取り、見事に再生させた。リップルウッドに対する感情的な反発は少し残っているものの、現在の日本ではハゲタカ・ファンドの役割は認知されてきたといえる。
グラマシーは、ロシアのほかにエクアドル、ブルガリア、韓国などに投資し、年37%以上のリターンを上げた。グラマシーの三人のヘッジファンド運用者は、必ず現地に足を運び、独自の調査を行う。発行体である当事国の政府や財務省、中央銀行の担当者などと面談して事情聴取する。また、投資先の発展途上国では独自の人脈を通してつねに魅力的な投資案件を探し出す努力を怠らない。こうした国際金融の特殊分野でのノウハウは、グラマシーの大きなセールス・ポイントである。
グラマシーの顧客としては、米国のジャンク債投資に特化したミューチュアル(投資信託)ファンド、年金などの大手機関投資家、投資銀行だけではなく、グラマシーの投資先である開発途上国政府自体も顧客として名を連ねている。まさに、摩訶不思議な国際金融のネットワークと言えよう。
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